2013年1月28日月曜日

「Living in the heart of the beast 1976」ヘンリー・カウ



イギリスのアヴァンギャルド・ロック・バンドHenry Cowによる1976年のライヴ。スイスのTV用パフォーマンスで、ロックのダイナミズムに現代音楽の実験性を加えた独自の世界を味わうことが出来ます。曲はアルバム「In Praise Of Learning」(1975)から「Living I The Heart Of The Beast」。

1970年代後半になるにつれ商業主義に侵されていく“ロック”に対し、本来のカウンター・カルチャー的独自性と反抗性を取り戻そうとする「RIO(Rock In Opposition:反体制ロック)」運動の祖でもあります。そしてメンバーだったクリス・カトラーが「Recommended Records」を立ち上げて、RIO運動に参加したバンドを支援したため、後に「レコメン系」と呼ばれるようになるアヴァンギャルド/チェンバー・ロックのジャンルを作ったバンドとも言えます。

ちなみに当時彼らが標的にしていた“商業主義”ロックとは、一般的に反体制の象徴みたいに言われていたパンク・ロックだったというのが面白いところ。

Henry Cowは1973年に「Legend」でデビュー、女性木管奏者リンゼイ・クーパーが加入して1974年に「Unrest」発表後、 Slapp Happyというバンドと1974年に共演作「Desperate Straights」を発表します。その後両バンドは合体。しかしアルバム「In Praise Of Learning」」完成後、女性ボーカル、ダグマー・クラウゼを残して元Slapp Happyのメンバーは脱退。そして1976年にライヴアルバム「Concerts」発表後、ベースのジョン・グリーヴズも脱退。このライヴはその時期のメンバーによるものです。

Tim Hodgkinson(キーボード、サックス)
Fred Frith(ギター、バイオリン)Georgina Born(ベース)
Chris Cutler(ドラムス)
Dagmar Krause(ボーカル)
Lindsay Cooper  (オーボエ、クラリネット、キーボード)

女性がメインボーカルのバンドだからと、最近多い美声の女性ボーカルをフロントに置いたシンフォ・バンドをイメージすると、見事に裏切られます。ダグマー・クラウゼは服装も地味でそっけなく、声も低音が中心で男性的。すでに佇まいがアンチ・コマーシャリズムです。

そしてレギュラー・グリップなのに踊るような大振りで叩くクリス・カトラーのドラミングが独特です。フレッド・フリスのギターはKing Crimsonのロバート・フリップ(Robert Fripp)に似て太く硬い音。この曲ではリンゼイ・クーパーが奥に引っ込んでいてほとんど映らないのが残念です。

どこかしら1970年前後のアングラ・バンド風な雰囲気があり、それこそアンチ商業主義を標榜した彼らの望むところであったのだろうと思います。それでも演奏にはルーズな部分はなく、むしろ木管楽器やバイオリンも加わって、全体的に現代音楽風な緊張感に満ちているのが魅力でしょう。